会員の自慢話 
       
第14話 『私の日本刀遍歴

                

 今回の第十四話は『私の日本刀遍歴』と題して、名古屋市
近郊にお住まいの、森 雅夫さんにご執筆いただきました。
 私が使用している本棚に一冊の古い本があります。
昭和42年3月に発行された、B5版 320頁「日本刀の鑑定と鑑賞」
常石 英明 著者の本で、私が日本刀について購入した最初の本
であります。今から40年ほど前、どこの書店でどのように見つけて
購入したか? 全く記憶にありませんが、初めて日本刀について
知りたいと思い買った本です。当時は現在のようにインターネット
等普及してなく、情報を簡単に得ることは出来なく「日本刀の本」を
探して、偶然見つけたものと思われます。
 何故 日本刀を知りたい? 記憶を遡れば、小さい頃からチャン
バラが好きであり、またノートの片隅に刀の絵をかいたり、友達の
家にあったガタガタの本物の脇差で、親の目を盗んで遊んだり、
日本史が好きだったりして、刀が好きではありましたが、直接何か
のきっかけで好きになったのでは無いように思います。
 ただ記憶にあることは、高校受験の学校見学で「工業刃物の火
造り鍛造」を見たとき「刀鍛冶」を思い浮かべた事を考えると、私の
心の奥深くに「憧れの日本刀」という意識が潜んでいたのでは無い
かと思われます。かと言って高校時代に日本刀に対する思いは全
く無く、卒業・就職してサラリーマンになり、サラリーマンも5年ぐらい
過ぎて大体仕事がわかってきた頃、自分の中で「このままサラリー
マンで一生過ごすつもり?」「自分の生きた証を残したい」「好きな
刀鍛冶になる努力もせず・・・」という若気の自問が湧いてきました。
 そして今からでも会社を辞め刀鍛冶になろうと決心し、まずは刀
鍛冶に成るにも、刀の良し悪しがわかるようにならねばと思い、刀
の勉強をするため「本」を探し、上記の本を見つけたのでした。

 この本で初めて「5ケ伝」や「錵・匂・映り・金筋」等 言葉の上で知
ることが出来、また、刀の勉強を進める手立てとして「日刀保一宮
支部」があることを教えていただき、刀鍛冶になる為に人を紹介し
ていただきました。 

 住所と地図を頼りにその方を訪ね相談しましたが、結果的に「両
親の許可」が得られず、刀鍛冶になることは断念してしまいました。
意志の弱い決心でしたが、その時会社を辞め刀鍛冶の道を進んで
いたら、現在と全く異なる人生を歩んでいた筈ですが、その時は
「何とかなる」と軽く考えていました。断念した後は趣味として進め、
「日刀保 一宮支部」に入会し楽しむことにしました。 
 当然 高価な刀は買えず、お金の許す範囲でまずは賞与時、会
社の近くの古美術店・骨董店で「透かし鍔」を一枚・一枚と買っては
古布で磨いたり、手の上で眺め、思いをはせていました。自分の
友達は車を買って楽しんでいましたが、私は車の代わりに「鍔」を
買って、眺めて楽しんでいました。数年たつとそんな鍔も十数枚集
まり、すべての鍔と追金を出して、初めて特別保存2尺3寸 無名
(平 鎮教 極め)直刃の刀を手に入れました。評価されない豊後
高田の刀ではありますが、手に入れた当初は毎日のように鞘を
払い、きりっと締まった美しい姿や、刃文、手に来る重さに歴史を
感じ、感激したものです。
 しかしこの刀は数年後ある事情により手放し、結婚した後は生活
に追われ完全に日本刀から離れてしまいました。
 「日刀保 一宮支部」についても十数名の会員と、年数回の会合、
閉ざされた空間の中で若かった私は馴染めなく、1〜2年で辞めて
しまいました。
 今思えばほんとに残念なことで、勉強だけでも続けていれば今
65歳になった私も、もう少し変わった姿になっていたと思われ残念
です。
 日本刀への再会は、この時より25年以上も経過して、子供も独立
し、サラリーマンとしての行先も見えだした50歳も過ぎた頃、だんだ
ん定年後の生きがいについて考えるようになり、その時「自分には
好きな日本刀」があることを思い起し、老後は日本刀を趣味の中心
に置くようにしようと決めました。
 そしてインターネットで日刀保の電話番号を調べ、電話したところ、
すでに一宮支部は無く、近くの名古屋支部の連絡先を教えていた
だき、加藤支部長に電話しました。 自分には若い頃の思いもあり、
入会することにためらいがありましたが「同じ趣味の人が集まり、余
暇を楽しんでみては・・・」との優しい言葉に励まされ入会し日本刀の
勉強を再開しました。平成15年1月のことです。
 入会当初、入札鑑定時に刀工の名前もろくに書けず、出席するの
が億劫に思ったこともありますが、会員諸先輩の仲間に入れていた
だき、圧倒的鑑定眼の差を感じながら、この差を少しでも埋める為、
出来る限り出席して、恥を忍んで入札し、刀を手に取って勉強をする
機会を増やして行こうと思いました。
 この年齢になると、たし算より、引き算が多くなり、あと何年と計算
しがちですが、私の目が見え、体が動く間はいつまでも続け、日本
刀の持つ「品格と美しさ、精神性」を感じ、楽しみながら、他のより多
くの人に少しでも伝え守って行く事が出来ればと思っています。
名古屋支部 森 雅夫 
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