会員の自慢話 第6話 『黒映りのある刀』




 今回の第六話は『黒映りのある刀』と題して、岐阜県揖斐郡池田町にお住まいの土川貞利さんにご執筆いただきました。

 刀の縁というものは、ほんとうにあると思いました。最初に出会った刀剣参考書に影響されたのか、黒映りのある太刀(刀)にあこがれていました。段々勉強するうち黒映りを見る力を手に入れることは非常に難しいこと、拝見するのさえ非常に難しいことも分かってきました。
 初めのうちは黒映りとはどんなものかさえ分からず黒映りを知りたくて知りたくてしょうがなかったものです。しかし、黒映りのある(太刀(刀)が目の前にあっても黒映りが認識できなかったものです。
 その後、なんとなく映りというものが分かり始めた頃は嬉しくてなりませんでした。白気映りか備前の丁子映りか棒映りか又、沸映りか分かりませんでした。未だに來映りと白気映りを間違ってしまいます。また、青江太刀の映りも見分けるのはなかなか難しいものです。そんな映りのある刀を欲しいと思うのですが・・・。
 我々、刀剣会会員は熱田神宮や名古屋支部の鑑賞会で名刀を拝見できますが、黒映りのある太刀(刀)はそう見られるものではありません。年に1回見られるかどうかです。熱田神宮で昨年1月に拝見できた宗吉の太刀など数えるほどです。このような滅多にない時はしっかりと目に焼付けようと何度も何度も拝見します。次代の上がった黒映りの太刀の良さを理解するのが、これまた難しく、見ても見ても分かりません。
 ある日、無名の少し錆びた刀があり大磨り上げに見立てました。まあなんと刃の明るい刀だなあと・・・思いました。今一つ感じたことは電球を刀身に当てて見ると電球の形が全然歪まなかったのです。よほど刀の歴史が良いのかこれだけ地ムラが出ないように研いであるのは、きっと名のある家の伝来と思いどうしても手に入れなければと思いました。幸この刀は手に入れることが出来ましたが、問題も有りました。刀身に錆のひどいところがあり。果たしてその錆が取りきれるか心配でしたが、見違えるほどに研ぎ上がりました。無名ながらかなり時代が上がる刀と思われましたので「日刀保の保存刀剣審査」に出しましたら、綾小路定利の究めとなりビックリでした。黒映りのある刀とまではいかなくても、定利なら鎌倉前期の刀工では有りませんか、なんと運の良い事です。

 『上を見たら切がない、下を見たら橋の下を宝船が通る・・・。』と刀剣美術(日刀保、機関誌)に書いておられた先輩がおられた。本来ならなかなか私の目に触れる品物ではありません。たまたま目の前に現れたのが『縁』だったのです。加えて私の名前は『定利』なのです。『定』の字が違うだけで読みは同じです。この喜びはちょっと言葉には出来ません。普通綾小路定利の鑑定では地鉄は良くつんでいて、刃が一部うるむ所があることが見所となっていますが、この刀は地、刃共に極めて明るく冴えていますから刀剣審査の究めがつくまでどの刀工の作か検討がつかず、頭を悩ませていましたが刀工名が分かると興味が沸き、調べてみたくなり毎日時間を作って家にある本やあちらこちらの本をあさりました。その結果、綾小路定利の在銘で確かな伝来の太刀の中に良く冴えた品があるそうです。
 究めは來国行と同時代となっていたが、今では太刀姿などからさらに時代が上がり鎌倉前期との見方もあります。この時代ならば備前刀で言えば古備前や古一文字の時代で、黒映りのある太刀と同時代なのです。
無名 綾小路 定利

 毎日のように手入れをしていると新しい発見があります。それまで見えなかった働きが見えるようになったり、地附、映りもあるように見えます。帽子も初めは判然とせず、大丸風にわずかに返っているようにしか見えませんでした。
 その内、帽子の沸がはっきり見えるようになると、物打ちから焼きが高くなり乱れ込みや金線が見えるようになりました。
 古い刀は手入れの仕方や時間によって見えなかった働きが見えるようになるものだと不思議に思っています。刀を手に出来た事もさることながら、研ぎについても何か深い縁を感ぜずにはおられません。


 一度お目にかかりたいと思っていた研師さんにお会い出来る機会がありました。そのとき拝見させていただいた太刀は上杉家伝來の古長船物で完品はこの刀しか現存しないそうです。最近読んだ研磨の本にもこの刀の話が載っていました。生茎で直刃の名刀、研ぎもきれいでしたがもの打ちにフクレがあり、今回このフクレを直すとの事でした。
 私はこのようなフクレは直らないと思っていましたが研師さんが直す。研磨技術の奥深さ、職人技のすばらしさを痛感しました。私の綾小路定利もキズがあるのでイヤになったかもしれませんが、直る事が分かり一層愛着がわいてきました。
 おかげさまで日々新しい発見をしながら手入れを楽しんでおります。
名古屋支部 土川貞利
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